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国土交通省は1年半前の2017年10月から本格実施されている賃貸取引での「IT重要事項説明」(以下「IT重説」と略す)を、個人の売買取引にも「IT重説」の対象を拡大させて、6月から社会実験を開始することになりました。社会実験の実施期間は1年間を予定しています。
こうした社会実験を開始するにあたって、これまでの賃貸取引だけに限定したIT重説の実施状況がどうだったのかの検証を行いました。それによると、17年10月から本格運用されたIT重説の実績は、19年1月末時点までで2万5607件に上りました。この間、IT重説を起因としたトラブルの相談件数はゼロ件。安全な取引が行われていたという「支障なし」の判断結果がでました。

※「IT重説」とは、「ITを活用した重要説明」を意味します。
宅地建物取引業法第35条に基づき、宅地建物取引士が行う重要事項説明をITを活用して行うというものです。パソコンやテレビ等の端末を利用し、対面と同様の説明・質疑応答が行える双方向性のある環境が必要とされます。「宅建業法の解釈・運用の考え方」(国交省不動産業課長通知)において、対面で行う重要事項説明と同様に取り扱うものと規定されています。

賃貸取引のIT重説でも、65%の人が「今後も利用したい」との回答

また、IT重説の実施後に行ったアンケート調査結果でも、「宅地建物取引士証の提示」を「受けた」が99.3%に上り、「機器のトラブル」は「なかった」が90.6%という結果がでました。さらに、IT重説を受けたお客様の方も、65.3%の人が「今後も利用したい」と回答していることから、実際の賃貸取引の現場では、IT重説がおおむねスムーズに行われているという状況がうかがえます。今回、個人の売買取引にまで対象範囲を拡大してIT重説の社会実験を開始することになったのは、このような良好な検証結果がでたためと考えられます。

実施マニュアルを作成して、1年かけて実証実験

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ただ、個人との売買取引の社会実験をするにあたって、事業者団体や関係者からヒアリングをしたところ、「売買取引は、賃貸取引に比べ、説明項目や書類の量が増える」「スマートフォンでは図面確認が難しいので、手元に資料があるようにするなどの工夫が必要」「個人売買では通信トラブルの可能性が増大しかねない」などのさまざまな留意点についての指摘がなされました。
こうした点を踏まえた上で、説明時間の事前通知や必要な書面の事前送付、トラブル検証のための録画の義務付け等、社会実験のルールをまとめた実施マニュアルの作成などの対応策を講じ、6月から約1年間をかけて実証実験を行うことになりました。

賃貸限定で電子書面の交付実験も同時に実施

同時に、賃貸取引限定で、宅建業法第35条(重要事項説明書)と第37条(契約内容記載書面)のデジタル交付についても、社会実験を開始することを決めております。実施期間はおおむね3カ月間で、実施方法は対象の書面を電子化したファイル(pdf等)に電子署名等を施し、説明の相手方に送付するというものです。

こうした社会実験を経て、近い将来には重要事項説明書等のデジタル交付も本格運用されてくるものと思われます。こうやって不動産業のIT化がさらに前進していけば、住まいを借りたり、買ったりする消費者の手続きが一層便利になり、取引現場の省力化にもつながって、宅建事業者にとって大きなメリットになることでしょう。さらに、IT時代を先取りするようなIT改革を率先して進めていくことこそが、横並びの同業者から1歩も2歩も抜け出して、勝利の躍進を図っていく近道であることを付記しておきます。