01森トラストのベンチャー・シェアオフィス
定額料金を支払って商売するというサブスクリプション(通称サブスク)型ビジネスが、不動産業界にも浸透してきました。働き方改革に伴い、労働の多様化が進む昨今、定額制シェアオフィス事業と呼ばれる「フレキシブルオフィス」が、全国主要都市にまで広がり始め、注目を集めているからです。これまで通常オフィスを借りるには3年ほどの長期契約でしたが、昨今では月額あるいは時間貸しの短期契約が増え、ビジネスモデルが変わろうとしているのです。今回は、そうしたサブスクの定額制ビジネスの動きを追ってみます。

日本社会が目指す「ソサイエティ5.0」では、IoT(Internet of Things)では、今後はさまざまな知識や情報が共有され、すべての人とモノがつながる時代が到来する、とされています。こうした動きに伴う働き方の多様化は、ワークスタイルそのものの急速な変化を生み出しました。その代表例の一つが、最近普及しはじめた定額制シェアオフィス事業とも呼ばれるフレキシブルオフィスの市場拡大なのです。

都心5区は、この2年間で2倍の規模で拡大している勢い

1-1_ワークスペースを併設したエントランス_イメージパース
アメリカの不動産サービス大手のJLL(ジョーンズ・ラング・ラサール)社の発表によると、東京都の都心5区のフレキシブルオフィスの延床面積の予測は、2019年の今年は20万㎡に迫る勢いで、これは過去2年間で2倍の規模に拡大しているそうです。
しかしこれは、同エリアの貸し床面積全体の1%にも満たず、世界的にみても東京のフレキシブルオフィスのストックは、海外の主要都市と比べて非常に少ないとされています。このような中で、働き方やオフィス需要の変化に危機感をもっている貸しビルのオーナーたちが、積極的に新たな取り組みを拡大させているのです。

三井不動産は全国50拠点で、会員企業350社、利用者も1ヵ月7万人に

02森トラのシェアオフィス
三井不動産は2017年から、法人向けに多拠点型のシェアオフィス「ワークスタイリング」を展開しています。これは法人の会員企業が従量制で、全国の拠点を自由に利用活用することができるシェアオフィスのサービスです。一部の拠点では、個室の専用オフィススペースの提供も行っているので、大企業のプロジェクトチーム単位での入居の他に、密なコミュニケーションをとれる環境を求める会社が社外のシェアオフィスとして契約するケースも多いといいます。

2019年8月時点での会員企業数は350社を超え、利用者も1ヵ月7万人に達しているといいます。拠点数も、2020年度までに全国50拠点まで拡大する計画だったのを、これを2019年度中に達成する勢いで、スケジュールを前倒しするほどの右肩上がりの成長を続けています。

東急不動産の会員制シェアオフィス事業は、「ビジネスエアポート」と名付けられ、都内8拠点で展開中です。この「ビジネスエアポート」では、国際空港のビジネスラウンジをイメージした共用ラウンジ等、ラグジュアリーな空間を提供しています。三井不の「ワークスタイリング」同様、立地のアクセスが良く、敷金や各種インフラ費用が不要で、スタイリッシュで仕事がはかどる空間、といった特徴で需要の獲得をめざしています。

森トラストでは、ソフト面のサービス提供にも力を入れています。
同社がクルー社と共同で運営しているコミュニティスペース「ドック神谷町」では、オープンイノベーションによる新規事業創出に関する、豊富なノウハウを有したコミュニティ・マネージャーを常駐させています。常駐を置くことがこのマッチングサービスの最大の特徴であり、新規事業の創出やイノベーションを加速させることを目的としています。

“コワーキングの場”として各社、ソフト面でのサービス提供を加速

従来のフレキシブルオフィスの利用層は、個人のフリーランスやスタートアップ企業が主でした。しかし最近は、イノベーション創出のために大企業がサテライトオフィスとして活用したり、多様なコネクションを求める企業・個人の「コワーキング(協働)の場」としての存在意義が求められているなど、単にスペースを貸し借りするだけの場ではなくなっています。
こうした各社の取り組みは、単に収益を生み出すのみならず、スタートアップ企業の成長をも促します。特に会社の人員が増加した際などには、拡張移転先の有力候補となって、協業の議論にも発展する等、新たなビジネスへのきっかけにもなるでしょう。そういう点で、デベロッパー大手各社にとっても、大きな可能性を秘めていると言えます。

眼を見張るのは、外資系「We Work(ウイーワーク)」社の急成長

その一方で眼を見張るのが、ソフトバンクが1兆円規模の出資をしたことでも話題になった外資系企業「We Work(ウイーワーク)」が、台風の目となって急速に勢いを伸ばしていることです。
「We Work(ウイーワーク)」社は2010年にアメリカに誕生した若い会社で、コミュニティ型ワークスペースを提供・運営しています。ニューヨークに本社を置き、現在では全世界30カ国、105都市、500拠点で、スタートアップ企業から大企業まで、50万人以上のメンバーが参加しています。
日本では2018年に東京・六本木のアークヒルズに最初の拠点を開設後、わずか1年余りで拠点数を20まで増やしました。月額単位の短期契約という定額制がセールスポイントで、従来の3年契約の通常賃貸と比べ、スタート時点でのハードルが低く、費用対効果の点を比べても、通常賃貸と比較して3年間で25%も削減されるといいます。

「We Work(ウイーワーク)」の大きな特徴の一つとして、すれ違いざまにお互いにハイタッチができる距離感で、廊下や階段の幅を設計する等、メンバー同士のコミュニケーションの活性化を意図したオフィス空間を、インハウスでデザインしていることがあげられます。
さらに、同社が他のフレキシブルオフィスと一線を画すのが、プラットフォーマーとしての特徴です。同社では、メンバー間の相談やマッチング、イベントを開催するコミュニティ・マネージャーを各施設に配置し、SNS機能を持つメンバー専用のアプリも開発しています。スタートアップ企業から大企業までが、オープンイノベーションの場として活用できる、コミュニティ・プラットフォームを構築しているのです。

こういった「We Work(ウイーワーク)」の基本的なビジネスモデルは、ビルオーナーからオフィスを借り、独自の内装仕様にバリューアップした上で、会員企業に賃貸するという転貸モデルです。
このため、現段階では既存のビルオーナーにとっては、競合関係というよりも、優良顧客としての側面が強いのでしょう。実際、三井不動産や森ビル等大手デベロッパーの所有する大規模ビルに積極的に入居しています。
東急不動産とソフトバンクがスマートビルを推進する「竹芝地区開発計画」では、オフィスデザインを「We Work(ウイーワーク)」が手掛けることが発表されています。