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令和時代を迎えた今年、国土交通省は10年後の2030年までをターゲットにした「不動産業ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて~」を発表しました。
その中では、不動産業とは①住生活を支える産業②わが国の持続的成長を支える産業③人々の「交流の場」支える産業――であることが、目指すべき将来のビジョンだと明確に打ち出されています。この三要素の具体化のため、2030年に向けて不動産業が達成すべき目標を、「価値創造の最大化=『不動産最適活用』(不動産が最適に活用されること)」の実現とサポートとして位置付けました。

平成時代のどん底に陥った不動産バブル崩壊後のデフレ惨状を克服できずに、リーマンショック、東日本大震災に遭遇し、低迷したまま新しき令和時代を迎えました。それと同時にわが国では、IT・AIの新技術の展望も見通せるようになってきました。これを機ととらえた国交省が、27年ぶりに策定したのが「不動産業のビジョン」です。

2030年までの10年間の「中・長期ビジョン」として現実味

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この「不動産業のビジョン」、監督官庁のお役所がつくったものなので、実態から遊離した能書きを並べただけの作文と思われがちですが、実際はかなりの業界人・団体が策定づくりに加わっており、不動産業界の実態に足を下ろした具体的な未来図を指し示しています。それも、2030年までというターゲットを設定しての「中・長期ビジョン」なので、現実性も十分です。

まず、「ビジョン2030」は、不動産業における市場環境の変化を9つ指摘しています。

① 少子高齢化・人口減少の進展(不動産業にとっては「待ったなし」の検討課題)
② 空き家・空き地等の遊休不動産の増加・既存ストックの老朽化
③ IT・AIなどの新技術の活用・浸透
④ 働き方改革の進展
⑤ グローバル化の進展
⑥ インフラ整備の進展による国土構造の変化
⑦ 地球環境問題の成約
⑧ 健康志向の高まり
⑨ 自然災害の脅威(ハザードマップの必要など)

IT、AIの技術革新の波に乗り、新たな不動産需要が創出

その上で、現実的に起こり得る「2030年の不動産業」の中・長期展望も打ち出されました。IT、AI(人工知能)をはじめとする技術革新により、「ソサイアティ5.0社会」(2016年に閣議決定された第5期科学技術基本計画で提唱)が実現されると、生活や働く「場」を選択する際の自由度が高まると考えられる、というのです。
同時に、不動産の「所有から利用へ」の動きがさらに強まると、シェアオフィスや二地域居住などの不動産活用の多様化が実現するほか、グローバル化の進展で外国人が増加したことにより、不動産に対する新たな需要の創出が期待される、と強調しています。

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こうした社会経済の急激な変化を汲んだ上で、不動産業のビジョンの基本コンセプトが打ち出されました。一つは、時代の要請や地域のニーズを的確に把握して、それに応え得る不動産を形成すること。そして二つ目は、それらの不動産を活用して、個人・企業・社会にとっての「価値創造の最大化=不動産最適活用」を図ることです。

「ストック型社会」の実現など、7つの達成すべき具体的な共通目標を設定

この将来ビジョンの実現を図るために、不動産業に携わる官と民、すべての関係者が達成すべき具体的目標として、次の7項目を設定しました。

(1)「ストック型社会」の実現
・既存住宅市場の活性化、空き家等の最大限の活用に加え、有効活用策が見込めない不動産の「たたみ方」を探る必要がある。
・不動産の新規供給に際しては、もはや量的拡大に力点を置くのではなく、良質な不動産ストックの形成に資する観点から、後世に承継できる良質なものを作り出す。

(2)安全・安心な不動産取引の実現
・安全安心な不動産取引の実現こそが、すべての基礎となる。
・宅建業法などすべての制度の適正な運用の徹底を図る。
・高齢化、グローバル化等に対応したトラブルの防止と、トラブルの未然防止対策を強化する。

(3)多様なライフスタイル、地方創生の実現
・技術革新により、距離的な場所制約が緩くなっているため、一時的でも地方を拠点として活動展開を目指すべきである。
・「地域資源」の活用など、関係者による積極的な議論を展開し、連携して取り組んでいくことが重要である。不動産業者にもこうしたプロセスへの積極的な参画が求められる。

(4)エリア価値の向上
・地域ニーズを掘り起こし、不動産の最適活用を通じてエリア価値、不動産価値の相乗的な向上につなげていくことが重要である。

(5)新たな需要の創造
・高齢化、外国人対応などの新たなニーズを着実に取り込んでいくことが求められる。
・地方創生の推進にも資する二地域居住、二地域就労などの場面において、複数の不動産を所有し、活用できる環境整備に取り組む必要がある。
・インバウンド需要を的確にとらえることも不可欠で、世界から選ばれるまちづくりとサービス展開を進める必要がある。

(6)すべての人が安心して暮らせる住まいの確保
・単身高齢者、外国人、子育て世帯など、すべての人が安心して暮らせる住まいとサービスの充実に取り組む必要がある。

(7)不動産教育・研究の充実
・「人生100年時代」、不動産取引・不動産投資に対する国民の正確な理解を促すとともに、トラブル・紛争の未然防止等を図ることが喫緊の課題となっている。
・このため、さまざまな機会を通じての不動産教育の充実を図ることが有効である。

2030年に向けた重点的政策課題の取り組み

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最後の総まとめとして、2030年に向けて重点的に検討すべき政策課題としては、次の項目があげられます。

① 「賃貸住宅管理業者登録制度」の法制化
② 不動産の「たたみ方」などの出口戦略のあり方
③ マンション管理の適正化と、老朽マンションの再生促進
④ 不動産業分野における新技術の活用方策
⑤ 「不動産総合データベース」など不動産関連情報基盤の整備・充実
⑥ 不動産情報の公開と個人情報保護の関係整理
⑦ 高齢者、外国人等による円滑な不動産取引の実現方策
⑧ エリアマネジメントの推進方策
⑨ 円滑な事業承継のあり方
⑩ 新たな投資環境へのシームレスな対応と、不動産投資市場の活性化
⑪ ESG、SDGsに即した不動産投資の推進に向けた環境の整備
⑫ インスペクション(建物状況調査)など現行制度の検証