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2018年9月6日の「北海道胆振東部地震」(最大震度7)では、9,000台のエレベーターが緊急停止しました。その3カ月前の6月18日の「大阪北部地震」(最大震度6弱)でも、大都市だっただけに6万6,000台ものエレベーターが止まってしまいました。とくにタワーマンション(高さ60㍍以上の20階建て以上)の住民は、電気も水道も断たれ、食料や水の重い荷物を持って階段を上り下りし、悲鳴を上げていました。高層マンションや高層ビルの震災では、エレベーターの停止・閉じ込めによる深刻な被害が浮き彫りになりました。そこで、地震時のエレベーターの緊急停止・閉じ込めの実態とその対策・解消策のあれこれを追ってみました。

エレベーターの緊急停止――「北海道地震」で9,000台、「大阪北部地震」では6万6,000台と過去最大

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「北海道胆振東部地震」では道内最大の火力発電所が止まってしまい、北海道全域の295万戸が一斉停電してしまうという未曽有の被害に見舞われました。このため、エレベーターも9,000台が緊急停止してしまい、そのうち閉じ込められてしまったのが、速報段階では23台だったといいます。「大阪北部地震」では、エレベーター停止が過去最大の6万6,000台で、そのうち中に閉じ込められたのが339台に上りました。

普通エレベーターが地震での突然の強い揺れを感知すると、安全のために自動的に最寄り階に停止する機能が発動しますが、これを復旧するためには、メーカーの技術員による点検が必要です。日本エレベーター協会では、停止したエレベーターを復旧させる優先順位を図表の通りに決めています。優先順番は、①人が閉じ込められている時、②病院などの緊急性の高い建物、③自治体などの公共性の高い建物、④高さ60㍍以上の超高層住宅、⑤そのほかの一般の建物――となっています。

現行の耐震基準では、「最寄りの階に自動停止し、扉が開く」安全策に

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エレベーターの耐震基準は、2009年の法律改正で大きな変化を遂げました。
地震の揺れを感知すると最寄りの階に自動停止し扉が開くという「地震時管制運転装置」の導入が義務付けられ、閉じ込め防止の解消策が講じられたのです。しかし、2009年以前の旧型のエレベーターも依然として未整備のまま多く残っており、これが今回の相次ぐ大規模地震での閉じ込め被害につながっているものと推定されています。
また、現行のエレベーター耐震基準には、長周期地震動に見舞われたときの対応は定められていないので、その時にどのような状態になるかも検討もしておく必要があります。

首都直下地震では、1万7,000人が閉じ込められる被害を想定

日本エレベーター協会の調査によると、2018年3月末時点で全国74万8,000台のうちの4分の1、18万7,000台のエレベーターが、「地震時管制運転装置」が未導入だといいます。また、政府の「中央防災会議」(2013年12月)の「首都直下地震の被害想定と対策について」(最終報告書)によると、首都直下地震が発生する確率は今後30年間で70%の危険率で、首都直下地震が発生した場合は、3万台のエレベーターが停止し、マンションやオフィスで1万7,000人が閉じ込められると想定されています。

通常エレベーターに閉じ込められた場合は、エレベーター内のインターフォンボタンを押して外部に連絡をすれば、メンテナンス会社等が救出に来てくれます。しかし、大規模な大地震による多数の閉じ込め人が発生した場合は、消防の機動力にも限界があり、業者の救出の人手も足りずに、救出に相当な時間がかかることが予想されるでしょう。この場合は、マンション居住者同士が協力し合って、自分たちで救出しなければならない事態も考えておく必要があります。

マンション防災、命を守るには日頃の防災意識と不断の備えをしっかりと。

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都会の住宅の居住形態は、マンション生活が圧倒的に多くなってきています。
この便利で快適な居住空間は、ひとたび大地震や、大規模な停電・断水などに見舞われた途端に、都市インフラの脆弱性のあおりを受けてパニック状態に襲われかねません。
マンションでのエレベーターの停止・閉じ込め問題一つを取り上げただけでも、大変な事態が想定されました。それらを防いで命を守るためには、日ごろからの防災意識と、不断の努力と備えが必要となってきます。最後に、イギリスの生物学者のダーウインの言葉で締めくくります。

 「生き残るのは、最も強いものでもなく、最も賢いものでもなく、最も環境に適応したものである」