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全国主要大都市の現在の地価動向を追うシリーズ、今回は京都編です。政府が目指す「2030年訪日外国人旅行者数6,000万人、旅行消費額15兆円」の国策を背景に、古都・京都市を中心にしたエリアでは、とくに好調な観光産業が牽引し、活況を見せています。具体的には、ホテル用地の活発な争奪戦が繰り広げられていて、それが地価の上昇に大きく寄与しています。

マンション建設需要に代わって、ホテル用地、ホテル建設需要が主役に

全国都道府県別の商業地の地価上昇率を見ると、京都府は昨年の4.5%の上昇率から、今年はさらに上昇して6.5%増となり、全国1位の上昇率を見せ、その勢いを増しています。ちなみに全国2位は、やはり同じ観光地の沖縄県で、今年は5.6%の伸びを見せています。この流れは、オリンピックイヤーの2020年前までは確実に続くとみられていて、消費需要の高まりが期待されます。

こうしたインバウンド観光客の増加に支えられた観光需要の増大により、京都市での商業地の地価は一段と上昇しています。今年は京都市内11区のすべての地区で地価が上昇し、その上昇率は9.1%(昨年は6.5%)の勢いを見せました。

その要因としては、京都のホテル建設需要がマンション建設需要に代わり主役となったという背景が挙げられます。これまで京都の商業地の地価を長くリードしてきたのはマンション用地でしたが、ホテル用地にとって代わられたのです。

京都の観光消費額は、2ケタ増の初の1兆円の大台乗せ

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京都観光総合調査(H29年6月21日公表)によれば、1昨年(H28年)に京都を訪れた内外の観光客数は5,522万人で、前年の5,684万人よりも162万人(2.9%減)少なくなりました。これは7年ぶりの減少で、市内の公共交通機関の混雑などが敬遠され、日帰りの日本人観光客が、前年よりも392万人も少ない3,764万人(9.4%減)となったことが大きな要因です。

しかし、宿泊客数はというと、H28年は1,415万人(前年比3.9%増)となり、過去最高を記録しました。内訳は、日本人が1,097万人(4.9%増)、外国人が318万人(0.6%増)。ちなみに、27年は1,362万人(うち日本人1,046万人、外国人316万人)でした。

観光消費額は、28年は前年の9,704億円から1兆862億円とはじめて1兆円台となり、1,157億円(11.9%増)増加しました。日本人1人当たりの平均消費額単価は、15%増の1万9,669円で、宿泊費や飲食費が増えました。外国人の平均単価は、2割近く減って10万96円。中国人がほぼ半減して6万4,670円に落ち込んだのが影響しました。

現在建築中や計画段階のホテルは、中京区、下京区、東山区、南区に多く見られます。通り別で見ると、烏丸通りの丸太町通りから京都駅、河原町通りの御池通りから五条通りまで、東山区では四条通りから七条通りにかけて分散的に、下京区と南区では京都駅周辺のエリアに集まっています。

京都市では、少子化により数年前から東山区、中京区、下京区の小中学校を統廃合し、廃校となった小学校の活用に着手しています。これまで、東山区の清水寺近くの清水小学校(昭和6年建築)を大手通信系不動産事業会社へ60年間貸与していましたが、レトロな建物を保全して40室の高級ホテルに改修する予定です。中京区の木屋町四条上るの立誠小学校(昭和2年建築)は、東京の事業者が旧校舎を耐震補強し、文化事業や地域活動の拠点として活用し、その西側にホテルを新築し併設することになりました。今後、京都市が民間活用予定の学校跡地は12カ所もあるといいます。

ホテルの伸びよりも簡易宿所が、それもゲストハウスが急伸長

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京都市への旅館業法の届け出がある施設は、統計開始以降、平成29年10月末現在で2,525。内訳は、旅館367(14.5%)、ホテル197(7.8%)、簡易宿所1,961(77.7%)となっています。
簡易宿所というのは、京町屋貸し、民宿、カプセルホテル、バンガロー、ゲストハウスなど、客室を多人数で共用することのある宿泊施設をいいます。今やこの簡易宿所、とくにゲストハウスの伸びがすさまじく、簡易宿所1,961のうち、平成27年度開設が246だったものが、28年度開設は813、29年4~10月末の7カ月間で499と、ここへきて急激に増えてきています。

これに対し、ホテルはというと、27年度開設が7、28年度開設20、29年4~10月末で19と、ペースアップしているものの、増加のスピードは遅いようです。ホテルは、最近でこそ既存建物のリノベーションも見られるようになりましたが、やはり大きな土地と多額の建設資金を必要とする新築が主流です。これに対し、簡易宿所は新築だけでなく、京町屋の転用や、遊休オフィスビルからの転用、自家用事業所からの転用など、既存建物の有効活用策としても注目されています。また、地元中小企業や個人の参入も目立ち、事業運営を代行する会社も増えています。さらに、京都外からの参入も多く、外国人による運営も増えつつある模様です

オフィスビルについては、ホテルや店舗ビルへの転用もあって、既存オフィスビルは減少してきており、新規オフィスビルの供給がないことも影響して空室率は低下しています。四条通りや烏丸通りの表通りに面したオフィスビルの中層階は、高水準に収れんしつつあり、賃料にやや上昇感が出てきています。

市内の商業地の上昇率も一段と拡大し、全国上昇率の上位3位、4位に

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市内の主要な地価動向を見ると、中京区は継続21地点のすべてが上昇し、その上昇率も11.7%と、御所南地区、田の字地区を中心に勢いを増しました。
下京区も20地点のすべてが上昇し、上昇率も14.5%にもなりました。とくに四条通りは、市民や観光客取り混ぜての街歩きの人でにぎわい、京都を代表する商業地域としての認識が高まっています。東山区も全11地点が上昇し、その上昇幅も15.4%と高く見られています。このあたりは、八坂神社、清水寺、建仁寺、三十三間堂、東福寺など国宝文化財や庭園を持つ有名社寺が多く、産寧坂や祇園などの古くからの街並みも残っていて観光客の密度も非常に高いです。この観光客を目当てにした全国からの出店希望が加熱しており、地価を大きく押し上げています。

南区も12.6%と大幅上昇し、とくに京都駅八条口至近の1地点(東九条上殿田町)が27.3%と大きく上昇し、商業地の全国上昇率第3位に輝きました。ちなみに全国第4位は、同じく京都市東山区四条通大和大路東入祇園町北側で、25.8%の伸びを見せました。

京都市の住宅地も山科区を除いて、全区で上昇し、広域からの需要が根強い

最後に、住宅地の地価動向を見てみましょう。京都市は11区のうち、山科区以外の10区が上昇し、上昇幅は1.3%増となりました。上京区は、5.1%上昇し、利便性の良好な地下鉄沿線や商業施設の充実した二条駅周辺の需要は堅調、御所西地区や御所東地区は地域・学区のステータス性とマンション用地の高騰や店舗の増加により、広域からの需要が依然として強く見られています。西陣地区では、ゲストハウス需要が広がりつつあるようです。東京からの移転予定の「文化庁」は、上京区の京都府警の建物に決定していますが、移転は数年先になる見込みです。最も観光性の強い東山区高台寺は、付近の料亭が和風ホテルへ転用されるなどのインバウンドの影響もあって8.2%と上昇幅を広げています。