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前号(新型シェアオフィスが続々登場)でも触れたとおり、働き方改革の推進を受けた不動産大手各社が、今年になってシェアオフィス事業に特段、力を入れ始めています。中でもユニークなのは、三井不動産の法人向け多拠点型シェアオフィス「ワークスタイリング」事業です。瞬く間に首都圏主要駅に16拠点、地方中核都市に6拠点の合計22カ所をオープンさせたこのサービスは、2018年春には30カ所にもなると見込まれています。最大の特徴は、契約利用企業の社員らが、これらすべての拠点を利用できることです。そこで今回は、利用開始から8カ月経った「ワークスタイリング」を利用・活用している契約会社の活用事例を紹介しましょう。

シェアオフィスの利用者は、「30~40歳代」の「部・課長」が大半

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まず全国22カ所での利用企業のアンケート結果を見てみましょう。
このアンケートによると、利用者の年齢は最も働き盛りの中心年代である「30~40歳代」が中心で、全体利用者の75%を占めていることが分かります。役職クラスでは、「部長・課長」クラスが41%。主任クラスまで入れると70%弱の人が利用しています。主な職種は営業職の人が最も多く35%を占め、次いで技術職(技術営業職も含めて)が21%、その次が企画職で18%と2割弱を占めています。

利用者の声として最も多かったのが、「モチベーションが向上した」というものです。
これは82%にのぼっており、大多数の利用者がシェアオフィスの効果があったと実感しています。それと連動して「生産性が2割以上向上した」という声が多く見られました。利用時間を聞いてみると「従来の『本社と往来する働き方』に比べ、30分以上もの時間の削減効果があった」という声が大多数を占めました。
また、シェアオフィスを複数拠点利用している人の目的を聞いたところ、まったく予想に反して第1位になったのが『ブレーンストーミング』でした。これだけを見ても、「働き方改革」が大都市の中枢部で深く静かに進行していることが分かります。

シェアオフィスを「営業支店」のように使い、TV会議室の利用も

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利用の仕方について最も多いのが、シェアオフィスを「営業支店」のように使っている、というものです。また、TV会議室の利用が多くなっているのも注目される点でしょう。商談に使う利用者が多く、効率よく生産性を上げているようです。ユニークなのは、「里帰り出勤」の事例でしょう。妻の出産の付き添いで仙台に帰っているときも、仙台のシェアオフィスに勤務することによってビジネスを継続できた、というものです。

さらに興味深いのは、シェアオフィス内で会員利用企業同士が集まって交流していることです。異種業種の会社同士が交流・懇談することで、新しい発想やアイデアを取り入れられるのは、ひとつのオフィスで働いているときは得ることのできないメリットでしょう。中には、各会社の有志による「英語レッスン」イベントが開催されているシェアオフィスもあるそうです。

業務の効率化を高める「どこでもオフィス」の拠点として

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次に、利用者の具体事例を業種別に聞いてみました。
まず、大手食品会社の「働き方改革」担当者は、シェアオフィス導入のきっかけを、「性別・国籍・価値観等にかかわらず、多様な人材が活躍できる会社にするための手段の一つ」として考えており、『どこでもオフィス』の拠点として新たな働き方を試行していました。具体的には、週1回会社に出社すれば、あとは働く場所はまったく問わない、という取り組みです。
利用の仕方は次の3つになります。

①「外勤中の隙間時間の有効活用としての利用」(主に営業パーソンが利用)
②「在宅勤務の代替場所としての利用」(在宅勤務をしたくても自宅が狭く書斎もない、子どもの相手や家事、雑用等で仕事に集中できない人がセミ在宅として利用できる)
③「中長期的な仕事をするための利用」(会社だとついつい目の前の仕事に集中しがちになるが、落ち着いた環境のシェアオフィスなら中長期的な仕事の効率が良い。想像力も高められる)

また、別の大手電機メーカーの営業担当者によると、「シェアオフィスは外出先での隙間時間などに利用し、お客様へのメール対応や資料作成などの業務を行っています。また、社内チームでのミーティングやお客様の商談・打ち合わせでも多く利用しています」とのことです。
「今まではカフェなどで資料作りをしてきましたが、騒々しくて集中できませんし、大声で電話するのもはばかれていました。しかしシェアオフィスなら、静かで快適な空間なので集中でき、セキュリティもしっかりしていて安心です。電話専用ブースもあるので、周りに気を使わないで済みます。非常に効率的になったと実感でき、こなせる仕事の量と幅が増えています」とシェアオフィスの利便性を賞賛していました。

仕事も子育て大切にする女性にとっては、「力強い味方です」

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大手化粧品会社の営業担当の女性は、「外出先から本社に戻らず、自宅に帰る前にシェアオフィスを使っていますが、そこでは30分から2時間くらい内勤作業や電話応対などで利用しています。また、朝に立ち寄れば通勤ラッシュを避けられるので、体力的にも助かっています」と言います。「産休明けで復職し、小さい子供がいるので、9:30から16:15までの通常よりも2時間短い時短勤務制度を利用して働いていますが、メールチェックや電話応対など、行く先々でもやらなければならないことが多く困っていました。しかし、シェアオフィスが使えるようになり、本社に戻らなくとも内勤作業ができたり、商談資料がプリントアウトできたりと、移動時間のムダをなくすことができたので本当にうれしい。そのまま帰ることもできるから大助かりで、時間に余裕ができ精神的にも落ち着きます」とのこと。
このように、仕事も子育ても大切にする女性にとっては、働き方改革の力強い味方になっているようです。

最後に、中堅通信機メーカーの営業企画担当者の感想を紹介しましょう。
彼は以下の二点を目的にシェアオフィスを導入しました。

①シェアオフィスの仕組みそのものを深く理解する
②働き方改革で求められる営業プロセスの効率化を図る

結果、移動時間が大幅に短縮でき、お客様と接する時間が増えたそうです。また、全国規模で使えるので、地方出張する際に、その土地のシェアオフィスを利用したいとわざわざ申請してくる営業担当者もいるんだとか。

利用者の意識、服装までもが変わってきた!

しかし、こうしたいいことずくめのメリットもある反面、課題も浮上してきております。まず、利用者の服装がスーツスタイルからGパンなどのカジュアルなものに変化してきたということ。シェアオフィスを利用するようになると行動そのものが変わるので、仕事に対する意識も変わってしまうのでしょう。
また、シェアオフィスの利用者は、本社オフィスの固定した机やイスが必要なくなるので、その余った本社の床スペースの活用先がなくなってしまいます。したがって、そのうち本社の大きなオフィスはいらなくなるのではという危惧が生まれてきます。

「床スペースを貸し売りする」従来のビジネスモデルが崩壊する?

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このように、わが国を代表する大手優良会社にシェアオフィスが利用され始めている今、オフィスの床を貸し売りするという不動産会社の従来型ビジネスモデルが大きく崩れようとしています。2020年オリンピック開催を控え、都心のオフィス供給は一段と活発化していますが、その水面下では、床を貸し売りする時代からシェアオフィス時代に移行する動きが深く静かに浸透しつつあります。グローバル化の本格化が進む今の時代、その事実をしっかりと認識し見据えておいた方がよいでしょう。